タナカ×Arms Magazine S&W M65 STROUP PPC CUSTOM
PPCカスタム
PPCとはアメリカで行われているシューティングマッチの一つで、「Police Practical Corce」または「Police Pistol Combat(現在NRAが採用しているのはこちら)」の略名とされています。1949年頃にF.B.I.が始めたコースをベースに57年頃競技としてのフォーマットが確立したと言われています。
使用する重機の種類によって4つのコースがあり、カスタムガン部門ので使用されているのがPPCカスタムと呼ばれるリボルバーベースの6inchカスタムGUNです。実践的とは言ってもスピードやタクティカル性よりも精度を重視した競技内容により徐々にマイナー化しましたが、現在でも競技は行われているようです。
日本では、1980年に月刊GUN誌に掲載されたイチロー・ナガタ氏のレポートによって認知されるようになり、1981年頃にはMGCとコクサイによってPPCカスタムがモデルガン化された事によってより広く知られるようになりました。
さらに、翌1982年に「西部警察 PART2」にMGCのPPCカスタムが使用されてからは、PPCカスタム(パイソンベースの4inchモデル)の人気が突出して高くなり、競技用カスタムとしてでは無く人気ドラマのプロップガン(キャリーガン)として、高い認知度と独自のポジションを築きました。
タナカ×Arms Magazine S&W M65 STROUP PPC CUSTOM
「タナカ×Arms Magazine S&W M65 STROUP PPC CUSTOM」はアームズマガジンの創刊400号記念モデルとして発売されました。アームズマガジン社のタイアップモデルは2014年に発売された「タニオコバ GM7 WILSON COMBAT TACTICAL ERITE」に続き2回目(2013年にタナカとArms Magazine Shopのタイアップモデルというのもありました)。
実銃の「STROUP PPC CUSTOM」は、イチロー・ナガタ氏が今からPPC 競技に使える精度を持ちつつキャリーできるPPC カスタムリボルバーとして、ガンスミスのE.R.STROUP氏に依頼してカスタムしたもの。
そのモデルの詳細は、月刊 Gun誌 1980 年12 月号に掲載されています。
その時のモデルは6 インチでしたが今回モデルアップされたのは、月刊 Gun Professional誌 2016年7月号でToshi氏が紹介した4 インチモデル。イチロー氏の6inchモデルの基本部分はそのままにバレルが4inchに短縮されています。
競技用カスタムとしてのPPCカスタムを作るよりも、より実戦向きとなっている4inchモデルをチョイスした旨が書かれていますが、80年代のMGC、コクサイのPPCカスタムがいずれもK フレームべースは無かった事に対するリベンジ的な意図(本当のPPCカスタムのモデルガンを作る)が企画サイドにあったような気がしてなりません。
タナカ×Arms Magazine S&W M65 STROUP PPC CUSTOM レビュー
パッケージは濃いブルーの無地で、タナカの8inchリボルバーが入る大型サイズのもの。中央に「TANAKA WORKS」のTWロゴがエンボス加工で入っているのが、少しだけ高級感を演出しています。
パッケージは「C式」と呼ばれる身の部分も紙のBOXになっている装飾性の高いタイプ(通常は身の部分が発泡スチロール)。内蓋にスポンジが使われていて、身の部分には型抜きされたウレタンの緩衝材が入っていてトイガン本体が傷つかないよう配慮されています。
型抜きされたウレタンの形状を見てみると6inchモデルにも対応可能な形状になっています。4inchモデルの販売が好調なら6inchモデルの発売もあるのかもしれませんね。本格的な競技用PPCカスタムのモデルガンも悪くないです。
パッケージから取り出した「STROUP PPC CUSTOM」は最近のトイガンでは珍しくなったシルバーメッキモデル。ニッケルメッキよりも半光っぽいサーチライトクロームメッキが使われているようで、ABS性のフレームやシリンダーとリブサイトやヨークなどの金属パーツと違和感の無い仕上がりになっています。
4inchのスラブバレルは削り出し加工で作られているようで、機械加工痕が残っています。右側バレル基部にある「E.R.STROUP」のカスタムビルダー名の刻印は実銃通り。実銃のベースモデルがS&W M65-2だったので、実銃にあるバレルピンも、しかり再現されています。
バレル下部に新設されたロッキングシステムは金属製の別パーツ。特集記事によるとステンレス製の切削加工で作られているようです。メカ的にもS&Wオリジナルのロッキングシステムと同じなので、シリンダーの開閉がスムーズで確実に行えます。
マズル部分は実銃通りに一段下がったステップタイプを再現しています。残念ながらライフリングの再現はありませんが、バレルパーツを型で作っていないことの証明にもなっています。フロントサイトには小型のサイトガードが付いていますが、過去のPPCカスタムのモデルガンに比べて格段に薄く再現されています。
40年間の技術差があるから当然とは言え、アルミの切削加工の精度の高さはカスタムガンならではです。
薄型のリブサイトはステンレス製。切削加工で作られているので、機械加工の痕もしっかり残されていて雰囲気抜群です。実銃では、このリブサイトはSTROUPオリジナルのカスタムパーツで、このモデルの最大の特徴にもなっています。
バレルにリブサイトを固定するヘキサゴンスクリューが、ステンレス製で無くブラック仕上げなのが実銃とは異っています。
実銃のリブサイトはバレル部分に2本のスクリューで固定されていますが、モデルガンでは素材の強度の関係でイライアソンサイトの裏側からフレームにもスクリューで固定されています。リアルでは無いですが強度を考えると妥当なアレンジだと思います。
リアサイトは実銃と同じイライアソンサイトが付いています。CAWからパーツの供給を受けているのかと思い比べてみたら、細部や刻印が微妙に異なっているのでタナカが新たにパーツとして製作したようです。今後のタナカ製品に使用されることがあるのかな。
リアサイトブレードの両サイドのエッジは丸められて引っかかりにくくなっています。これはイチロー ナガタ氏の6inch STROUP CUSTOMからの仕様で、最初から競技用だけで無くキャリーガンを意識していたことが、窺えます。
ハンマーは実銃と異なりセミワイドタイプになっています。実銃通りワイドタイプにするにはコスト的に無理だったようです。その分、可動式ハンマーノーズがハンマーと同様メッキ処理されているのは嬉しいところです。
トリガーはスリムでグルーブの無いスムースタイプ。実銃に準じた仕様になっていますが、個人的にはもう少し両サイドの角を滑らかにして欲しかったです。過去のタナカの製品でこのタイプは無かったはずなので、新規に作ったか既存パーツをカスタムしたのでしょうね。
タナカ製Kフレームモデルの左側リコイルシールドの形状が、実銃のM65-2と比べて丸みが無さ過ぎて角張って見えるのが少々不満。元々タナカのKフレームはバレルピンが省略された後のモデル用に作られたフレームがベースだし、実銃の加工自体も手作業で行われている部分だから気にしないのが一番なんですけどね。
357マグナム用のシリンダーは、新規に製作されたカウンターボアードタイプ。80年代初期の357マグナム使用のKフレームなら、この見慣れたシリンダーの再現は必須ですね。このシリンダーを使用した、タナカの新製品はあるのかな。
シリンダーをスイングアウトさせて、リコイルシールドの内側を見ると、何故か必要以上にオイルが塗られています。
オイルを拭き取ってみるとリコイルシールドの中心部分(ボルト用の穴とファイアリングピン用の穴周辺)にメッキが乗っていない部分があります。最近ではタナカのF-COMP等でもあったようですが、実際に見ると かなりガッカリする部分です。
樹脂にメッキ加工するために最初に行う無電解ニッケルメッキ段階での不良だと思われますが、根本的な要因はメッキ処理の歩留まりの悪さを解消するためにメッキ不良の基準を甘くしたか、以前のような高い技術を持つメッキ業者が廃業して無くなったかのどちらかでしょう〈あるいは両方かも)。
実際にメッキモデルの製造を中止したトイガンメーカーも出てきているので、現在のような小ロットの製造で従来通りのコストでメッキモデルを作ることが困難になっているのかもしれません。
日本の物作り神話は、中小企業の技術力があってこそ成り立っていたと言われます。中小の製造業の多くが後継者不足夜景英の悪化等で廃業し技術が継承されない現在、モデルガンも過去の製品クオリティを維持し続けるのが難しくなっている事が想定できます。
メッキ仕上げで現状問題無いメーカーもありますけど、今後も維持できるかどうかは分からないですよね。
「STROUP PPC CUSTOM」の特徴の一つが、右側のリコイルシールドに開けられた穴。装填されたカートのプライマーが確認できる位置に開けられていて、次弾が発火済みかどうかがスイングアウトしなくても瞬時に確認できるようになっています。
実銃の「STROUP PPC CUSTOM」でもTOSHI氏所有の4inchモデルのみに加工されていて、モデルガンでもカートのプライマー部分を確認することができます。
グリップはNILL GRIPタイプの樹脂製グリップが付属します。このグリップはタナカ初期のスマイソン(ガスガン)に付属したものと同じもののようです。無垢の樹脂グリップで、グリップだけで約140gの重さがあります。
流用できるカスタムグリップということで、製品化する際にこのグリップを選択することになったと思いますが、ウィークハンドでも撃つことが前提のPPC CUSTOMで、このグリップは本来あり得ない選択です。
Toshi氏の実銃が最初に紹介された2016年のGun Professional誌においてはチェッカー入りのHOGUEの木製グリップが装着されていました。
フレームがラウンドバットグリップになっている事もあり得ない選択に思えます。1980年代のPPCカスタムではスクエアバットグリップが普通で、S&Wリボルバーのラウンドバットグリップ化が進んだのは、200年代になってからのような気がします。
製作側の記事では「グリップの選択肢を増やすため」みたいなことが書かれていますが、現在市販されている実銃用グリップで考えればそうかもしれませんが、時代的に合わないグリップが多いのでスクエアバットのままモデルアップした方が良かった気がします。
右側フレームには「MADE IN U.S.A.」「「MARCAS REGISTRADAS SMITH&WESSON SPRINGFIELD.MASS.」と実銃通りになっています。タナカのS&WのトイガンはVer.2以降、この刻印に変わったと思いますが、やっぱり「JAPAN」が入っているよりは断然良いですね。
サイドプレートは金属製で、実銃のベースモデルがS&W M65-2なので、表面にS&Wロゴが刻印された形状を再現しています。フレームとの合わせもピッタリで余分な隙間も無く、取り外しに手こずるぐらいです。
サイドプレート裏側も実銃同様の形状をしています。樹脂フレームなのに剛性が高くアクションがスムーズなのは、金属製サイドプレートによるところが大きいと思います。剛性面だけで無くサイドプレート単体で約50gの重量UPになっている点も見逃せません。
内部メカはS&Wメカを完璧に再現しています。アクションの再現も完璧でダブルアクションでトリガーを引くと、実銃のようにシリンダーがロックされてからハンマーを落とすことが出来ます。
各パーツはカスタムだからといって特に研磨されている訳ではありませんが、オリジナルのままでも充分に軽いトリガープルになっています。
カートリッジは新型のダブルキャップカートリッジが6発付属します。弾頭部が2トーンになっているのでホローポイント弾のように見えます。ローダーも専用のものが付属します。今後、別売されるんでしょうけど価格が気になりますね。
ダブルキャップで発火するとマズルフラッシュがかなり出るみたいですけど、現状発火していないので詳細は不明です。
最後に(サマリー)
「STROUP PPC CUSTOM」はタナカとArms Magazine誌のコラボモデル(Arms Magazine誌の別注モデル)という、ある意味限定カスタム的手法で作られたモデルです。完全予約販売(前払い)という独特の販売方法を取ったことで、価格もある程度抑えられていると思われます。
新たに製作したスラブバレルやリブサイトの仕上がりが素晴らしい上に、ベースとなるKフレーム自体がプルーフされている優秀なモデルだけあって、満足度の高いモデルに仕上がっていると思います。
反面、既存パーツを流用した部分には納得できない箇所も多く、特にラウンドバットフレームで製作したことは個人的に疑問符が付きます。
「STROUP PPC CUSTOM」のグリップと言えば、ロジャースのコンバットグリップのイメージが強いので、スクエアバットフレームでロジャースグリップ用にウェイトカットが施された仕様だったら、感涙モノだったのに。
リコイルシールドのメッキ不良についても、数年前までは完璧なメッキを製品化できていただけに残念な気もしますが、現在の製品上の仕様なら記事で取り上げた際にあらかじめ触れておくべきだったと思います。
気になる部分について繰り返し書きましたが、2022年に敢えてKフレームのPPC CUSTOM GUNのモデルガンを発売してくれたことに感謝です。
参考資料
・月刊 GUN誌 1980年12月号 (PPC カスタムリボルバー ”グランド・マスター” by I.Nagata)
・月刊GUN誌 2005年6月号(M65 PPCカスタム グランドマスター by Toshi)
・月刊 Gun Professionals 2016年 7月号(PPC カスタム リボルバース by Toshi)
・月刊 Gun Professionals 2022年 1月号(モデル 65 ストラウプ カスタム by Toshi)
・月刊 Gun Professionals 2022年 2月号( S&W モデル65 ストラウプカスタム byくろがねゆう)
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