MULE MAUSER HSc INTER ARMS刻印カスタム
実銃について
モーゼルHScは、モーゼルM1934の後継モデルとして開発された32ACP口径・装弾数8+1発のダブルアクション中型オートで、HS(Hahn−Selbstspanner ドイツ語でハンマーセルフコッキングの意味)シリーズの3番目のモデル(a、bは試作モデル)として1938年に完成しました。
しかし製造認可がおりたのは1940年になってからで、製造開始後は軍拡中のドイツ空軍に正式採用され、陸軍や武装親衛隊の将校用拳銃としても指定され、大戦中に25万挺ほど製造されたと言われています。
戦後復興したモーゼル社は米インターアームズ社の依頼で1968年からHScを再生産し、.32口径だけではなく380口径も加わりました。構造の一部簡略化はあったものの、77年の生産中止まで約6万挺(63,118挺)が生産されたと言われています。
今回MULEがモデルアップしたのは、インターアームズ社が戦後アメリカで販売した.32口径モデルです。
インターアームズ社について
インターアームズ社はアメリカ陸軍やCIAで武器エキスパートとして働いていたサミュエル・カミングスによって1953年に設立されたインターアームコ(International Armament Corporation)がルーツとなる企業の総称で、初期には大戦中の余剰兵器を各国政府に販売したり中古軍用銃をアメリカ民間市場に販売する中古武器商として業績を拡大していきました。
1968年にアメリカで余剰軍用銃の輸入規制が始まると、数多くの有名海外銃器メーカーの販売代理店として民間用の輸入銃器を販売する方向にシフト。ワルサーやモーゼル、スター社等のヨーロッパの有名銃器メーカーの輸入代理店として名を馳せました。後にワルサーPPK等の製品をアメリカ国内でライセンス生産をするようになり、ワルサー本社には存在しないステンレスモデル等もラインナップに加わります。
1970〜80年代のGUN専門誌に載っているワルサーやモーゼル、SIG等の製品(アメリカ国内で記事にされたもの)には大抵INTERARMSの刻印があったのが印象的でした。
1998年に創業者サミュエル・カミングスが亡くなると、インターアームズ社は売却され、現在はハイスタンダード社傘下の通販部門(パーツ販売・補修)のような位置づけで存続しています。
MULE MAUSER HScINTERARMS刻印モデルについて
2016年にHWSがMAUSER HScのモデルガンを発売した6ヶ月後に、MULEからHWSでは省かれていたMAUSER刻印やシリアルNOの追加刻印を施し、内部ウェイトを同梱した限定カスタムとも言えるモデル(当時はMULE直販モデルの購入サービス扱いでした)を発売しました。
それから7年経った2023年、突如MULE直販モデルとして、「INTERARMS刻印」モデルが発売されました。戦後版MAUSER HScの刻印を新たに起こし、戦後版木製グリップと内部ウェイトを装着した限定カスタムモデル第2弾と言うべきモデルです。
MULEオリジナル部分を中心に細部を見ていきます
左側スライド先端の刻印は「Original」の文字とセットになった1956年に再建された戦後のMAUSER-WERKE(マウザー ヴェルケ)ロゴ。
右側一行目は社名の「MAUSER-WERKE A.G.(株式会社)」と会社所在地の「Oberndorf.a.N.(オーベンドルフ アム・ネッカー)」。2行目はモデル名「Model HSc」、生産国「Made in Germany」。トリガーガードの「00 6438」はシリアルNO。
右側スライドの刻印は、1.2行目は「DISTRIBUTED BY INTERARMS(卸元 インターアームズ)」。3行目はインターアームズの所在地「ALEXANDRIA.VIRGINIA.U.S.A.(バージニア州アレキサンドリア)」。先端のマークはインターアームズのロゴマーク。
チャンバーの「7.65」は口径表示、チャンバー下の「00.6438」はシリアルNO。トリガーガードのモーゼルバナー風の「FBM」マークは「Freiwilliger Beschuß Mauser(モーゼル社の自主的な発砲証明)」の略で、モーゼル社独自行のプルーフマーク。
グリップも戦後型グリップを新たに製作しているとのこと。チェッカーが平面ぽくて食いつきが無いのは実銃のグリップを正確に再現しているみたいです。オイル仕上げと思われるグリップの色合いが写真で見るHScのグリップの雰囲気にとてもよく似ています。
通常分解は、大戦中モデルと同様、最初にマガジンを抜いてからハンマーをコックしてセフティを掛けます。次にトリガーガード内のテイクダウンラッチを下に下げながらスライドを前方に押し出してからスライド前部を上方に抜き出します。
大戦時のHScのメインスプリングは左巻きでしたが、戦後モデルは一般的な右巻きに変わっていますけど、今回の刻印カスタムでは左巻きのままです。
バレルのチャンバー部分は磨かれていて(HWSのHScは元々自分で磨く仕様)口径表示「7.65」「.32ACP」が打たれています。メインがアメリカでの販売だから「.32ACP」表示が併記されているんでしょうね。残念ながらチャンバーの反対側に打たれているモーゼルロゴはありません(参考にした実銃には無かった可能性もあります)。
よく見るとバレル表面が、おそらくインサートの形状の影響で波打った感じになっているのが少し気になります。2016年モデルでは、そのようなことは無かったので製造ロットによって事後収縮したような気がします。メインSPを付ければ当然分かりません。
トリガーガード内には金属製のウェイトが入れられています。2016年のMULE直販カスタムでは、購入者が自分で入れるようになっていましたが、今回は最初から接着されています。
グリップ裏側とフレームにもウェイトが入れられています。これも以前は購入者がセットするようになっていましたから、超親切になりました。グリップウェイトにはインターアームズのロゴがレーザー刻印されているのが、ご愛敬です。ウェイト3種5枚で約100gの重量増になっているそうなので、ウェイトの別売をして欲しいです。
戦後モデルは生産の簡略化のためにバックストラップ部分(赤の実線部分)が別パーツ化されていて、2分割したものを後から一体化するように改良されていました。新しいバックストラップのパーツは赤線部分でカットされ、点線部分のラインまでが肉盛りされた形状になっています。
マガジンボトムにはモーゼルロゴが入っています。この位置も大戦中も出るとは異なって再現されているのが嬉しいですね。戦後モデルに付属するマガジンバンパーが無いのが残念でしたが、MULEのBlogに今後生産する旨が書かれていたので期待大です。
付属の7.65mmダミーカート8発全部に、「7.65mm」のスタンプだけでは無く「INTERARMS」の刻印とプライマー部にはインターアームズロゴが打たれています。当然実物にはこのようなカートリッジはありませんが、楽しいお遊びです(かなりの手間だと思うのですが)。
今回おまけとして、実銃のパッケージを模したモーゼルHSCのインターアームズパッケージが付いてきました。実銃のパッケージは光沢があるようですけど、雰囲気的には良くできています。こういうのってモデルガン的にも嬉しいですね。
最後に(サマリー)
MULEのHSc刻印カスタムは、blog等によると生産数は100挺弱とのこと。即日完売とは行かなかったようですが、現時点では完売しています。今回のINTERARMS刻印モデルを製作するに当たって、MULEは無刻印のスライドをHWSから仕入れているそうです。
刻印カスタムと言うよりも手が込んでいるので、MULEの生産ながら”別注モデル”みたいなものですね。昔のショップカスタムのようなモデルを現在の工作精度で販売してくれるのは、大変ありがたいです。
少数生産なので当然高価にはなりますが、モデルガンの販売数自体が大幅に減っている昨今では許容できる価格でしょう。INTERARMS刻印のHScは一部の世代には嵌まるセレクトです。このような少数生産カスタムが現在も作られているのは嬉しいことです。
・MULE モーゼル HSc INTERARMS 刻印カスタム・・・・・・46,000円(税込み)
参考資料
・月刊GUN誌 1980年10月号
・月刊GUN誌2004年8月号
・月刊GUN誌1998年5月号
・月刊GUN Professionals 2023年8月号
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