MULE(CAW)トンプソンM1A1
レビュー (2015,10,17 追加更新)
2015年8月20日に発売されたMULE(CAW)製トンプソンM1A1 モデルガンを入手したので、ベースとなったハドソン製M1A1と比較しながら紹介していきます。
トンプソンM1A1の実銃についての簡単な説明
トンプソン サブマシンガンはジョン・トンプソンアメリカ陸軍元大佐が立ち上げた、オート・オードナンス社(以下AO社)が開発した45ACPを使用する一連のサブマシンガンの名称で、M1921、M1928、M1、M1A1の4タイプに大別されます。
M1921
最初の量産モデルで、ブリッシュ・ロック式のボルト、バーチカルフォアグリップが特徴的。20連BOXマガジン、50連・100連ドラムマガジンを使用。ショルダーストックは着脱式。
製造はコルト社。印象的なカッツ・コンペンセイター26年以降製造に作られたオプションパーツで、次のM1928からは、ほぼ標準装備。
▲ 上:MGC トンプソンM1921、下:MULE トンプソンM1A1
M1928(U.S.M1928A1)
アメリカ海軍の要望によりM1921の発射速度を低下させたM1928NAVYモデルをベースにした、軍制式採用銃。
バーチカルストックを水平フォアグリップに交換したモデル。順次生産性向上のため、固定式リアサイトやバレルフィンの廃止、等を行っています。サベージ社と一部AO社によって1940年〜42年まで製造。
M1
M1928A1の簡略化モデル。主な省力箇所は、ブリッシュ・ロックの廃止、ドラムマガジンの廃止、カッツ・コンペンセイターの省略。セレクター・セフティの簡略化、固定式ショルダーストックの採用など。
操作性の向上を目的としたコッキングレバーの右サイドへの移行と、落下時のボルトロックシステム、30連マガジン採用もこのモデルから。制式採用は1942年4月。製造はサベージ社、一部AO社。
M1A1
M1のハンマーを省略し、固定ファイアリングピン付ボルトを採用したモデル。生産は1942年10月から。トンプソン サブマシンガンの約半数がこのM1とM1A1。
トンプソン サブマシンガンは主要4モデルがそれぞれ別のメーカー(M1921がMGC、M1928A1が国際産業、M1が東京CMC、M1A1がハドソン産業、六研からもM1928とM1A1)からモデルガンとして発売されています。
ハドソン製 トンプソンM1A1について
MULE(CAW)トンプソンM1A1の元となったハドソン製トンプソンM1A1は、1979年に発売されたブローバックモデルガンで、設計は御子柴一郎氏。ハドソン産業廃業の2009年頃まで販売され続けた息の長いモデルです。
発売当初は紙火薬のデトネータ−方式、後にピストンファイア式、最後期はMGCのCP方式に改良されて生産されましたが、発火性能については正直芳しいものでは無かったようです。
反面、当時としては内部構造は実銃に忠実で、上下フレームの噛み合わせが実物通りレール方式になっていたり、最終弾発射後のボルトオープン機構やボルト閉鎖時のセフティオン機能も再現されていました。またストックも実銃ストックと同サイズで作られていたようです。
欠点としては上下フレームのガタが出やすく構造上もバレル基部の強度が弱かったようで、これらの問題は最後まで解決されなかったようです。発売当初はシルバーモデル、簡易サイトモデル等のバリエーションがありました。
MULE(CAW)トンプソンM1A1について
ハドソン廃業に伴い放出したトンプソンM1A1の金型をCAWが入手して金型の一部を変更。
今回MULEがCAWに生産を依頼して、新たに刻印等の仕上げを施してリメイクしたものが、今回のMULE(CAW)トンプソンM1A1ということになります。
今回のM1A1はMULEからの直販の他、一般流通からもMULEブランドで販売されています。また六研刻印仕様で発火カートリッジを変更したのものが、別途エラン ブランドでポストホビーから販売されています。
MULE版のパッケージデザインは文字のみのシンプルなもの。
昔のようにパッケージに凝る時代では無いと思いますが、最初に接するところなので重視しちゃいますね。個人的にはM1A1の文字間バランスが悪いのが気になります(細か過ぎるところですけど)。
パッケージ内には旧ハドソン時代と同様ストックを外した状態で本体が収容されています。緩衝材としてダンボールが使われているところはMGCのトンプソンに似た雰囲気です。空きスペースが多いのでオプションのマガジンやカートが収納できるところは良いですね。
次に本体細部を見ていきます
最初にバットストックを本体に取り付けますが、バットストックを含めた木製パーツのデキが良いのがMULE(CAW)M1A1の魅力の一つです。
当時のモデルガンは各社同じようなレベルでしたが、ハドソン時代はストック自体の木質も良くなかった上に、角張っていたのであまり良い印象は無かったですね。
CAWはM3A1でも同じようなことがありましたが、何故か実銃写真で見るのと異なり割れ止めネジの頭が左側に来ているのが気になります。ネジの左右を入れ換えれば済むことですけど。
バットプレートのオイラー入れ用の蓋も可動しますが、ハドソン時代同様オイラーは付属しません。80年代は再現されるだけで嬉しかったんですけど、最近は物足りないですね。別売オプションでよいので作って欲しいところです。
もっとも蓋が90度開かないので、オイラーがあっても入らない懸念があります。
MULE(CAW)製M1A1の木製グリップは良いですね。木の質感が良いのはもちろんですが、フィンガーレスト部分が控えめなので邪魔にならず、しかも角のアールが綺麗に丸められているので手に馴染みます。
過去のトンプソンのグリップは余り手に馴染まなかっただけに、余計気に入りました。
フォアグリップも角のアールがほどよく丸められて良い雰囲気です。ハドソン時代のものはフォアグリップの角材っぽいイメージが強いので、全体に角張った印象を持っていました。
アッパーレシーバー左側の刻印は実銃同様「THOMPSON SUBMACHINGUN CALIBER.45 MIA1」とシリアル「NO 776264」が新規で入れられています。
ハドソン版はシリアルの入っている3行目が「MFG HUDSON NO 1979 12」のオリジナル刻印になっていました。
アッパーレシーバー右側はメーカー名「AUTO-ORDNANCE CORPORATION」と所在地「BRIDGEPORT,CONNECTICUT,U,S,A,」が実銃どおりに入っています。
ハドソン版でも書体こそ異なるものの同じ刻印が入っていました。30年以上前のモデルガンとしてはリアルな再現だったのに驚きます。
チャンバー部には「AUTO-ORDNANCE」社の主任検査官の検印「GEG」や陸軍担当者の受領印「FJA」、陸軍検査マークが入っています。これらの刻印はMULE(CAW)版になってからの新規刻印です。
また、ハドソン版ではチャンバー側面に露出していたガスバイパス取付用の溝とピン穴も、MULE(CAW)版では修正されて無くなりリアルな形状になっています。
チャンバー下部(ガスバイパス)には生産を担当した「SAVAGE」社の「S」マークの刻印が入っています。ここまで拘っていると、リメイク版と言うよりも刻印カスタムですね。
アッパーレシーバー上面の「THOMPSON」のトレードマークと「U.S. PROPERTY」刻印も実銃どおり。ハドソン版ではトレードマークに似せたHUDSONロゴと、「U.S. PROPERTY」刻印は同じ位置に天地逆に入っていました。
チャンバー部からリアサイトにかけてのアッパーフレーム上面がフラットに仕上がっているのが良いですね。加工跡があるよりも平面がキチンと出ている方が削り出しっぽいです。
フロントサイトは、ハドソン版と異なり別パーツになってシャープに仕上がっています。見にくいですが銃口にはライフリングも再現されています。
リアサイトはM1から採用されたL字の簡易サイトですが、MULE(CAW)版では反射防止パターンが追加されました。
ピボットプレートはハドソン版同様、別パーツになっています。MGCのトンプソンから入ると、リアルで嬉しい部分です。
スリットから覗くエキストラクターはハドソン時代から破損が多かったようで,MULE(CAW)版は新設計になっているようです。
ハドソン時代からボルトをホールドオープンさせるトリップが再現されていましたが、MULE(CAW)版でもそのまま再現されているので最終弾発射後にボルトがホールドオープンします。
改めてトリガーガード付近を見てみると、トリガーガード幅がロアレシーバー部と同じに幅なっていたり、前面がそのままマガジンスリットになっていたり合理的な設計になっているのに気がつきます。
トンプソンというとサブマシンガンとしては加工数が多いコストのかかる銃の代表のように理解していましたが、平面加工を多用した工程の少ない量産向きの設計になっていたようです。
実際、1942年当時のトンプソンM1の軍への納入価格は43$で、M1カービンの45$とほぼ同様だったそうです。
次に内部を見ていきます
分解はマガジンを外して、ロアフレーム後端のフレームラッチを押しながらアッパーフレームを前方に抜き取ることで上下フレームを分解します。
アッパーフレームからバッファーを外し、リコイルSPガイドとリコイルSPを取り外せば、ボルトをフレームから取り出せます。ストック以外の分解は工具無しでおこなうことが出来ます。
ボルト底面にはM1以降に付けられた、ボルト閉鎖時にセフティをオンにして落下時の暴発防止用の切り欠き(セフティでボルトを固定し、落下時に慣性でボルトが動かないようにするため)と、通常のコッキング時の切り欠きの2つが刻まれています。
エジェクションポート下側から見ると、新たに実銃同様左右に半円状の肉抜き加工がなされています。またエジェクター形状もハドソン版と異なり円柱状になっているようです。
フォアグリップを外すとバレル下面にガスバイパスが表れます。ガスバイパスのカバー部に「MULE.CO.JP」の隠しロゴが彫られています。
ガスバイパス前方のネジを外すと、アッパーレシーバーからチャンバー部と一体になったガスバイパスユニットを取り外せます。
ガスバイパスのカバー部も2本のネジを外せば分解できるので、発火後のメンテナンスはここまで分解すれば充分でしょう。
ガスバイパスユニットを外すとバレル下にSMG刻印が隠れています。本来SMG刻印は銃刀法上の規制マークなので、この位置で良いのか疑問がありますが、位置や書体についての明確な規定自体がないようですね。
ここまで分解知るとチャンバー部の肉厚が薄いのに気がつきます。特に銃身部と下方が大きく開いたチャンバー部との接続部分の強度が心配になります。
これはハドソン時代からの問題点で、倒したらバレルが折れるというのも頷けます。
MULE(CAW)ではバレル付け根に金型改修で三角の強化部分を作ることで対応しています。これによってバレル上下からの衝撃には強くなっていると思われますが、左右からの衝撃には構造上の弱さが残っていそうです。
ハドソン時代からの問題点と言えば、上下レシーバーのガタがあげられます。これは、成形時にロアレシーバーが前方に向かって下の方に反っているのが原因のようです。本来ならば鋳造時に金属の注入圧を高めれば反りは防げるのだそうですが、金型が古いためそこまで圧を高める事ができないとのこと。
そのため、現状はカシメで調整しているのだけなので分解を繰り返すと次第にガタが出てきます。最終的にはプラ板などで個人で対応するしか無さそうですが、残念な所です。
次にアクセサリーパーツを見てみます
カートリッジはCAWガバメントとやMGCガバメントと同サイズながら、トンプソン専用(リム部はCAWガバメントと共用)のものとなっています。
カート先端の形状が変わったのはフィーディングの問題なんでしょうね。試しに手動で操作してみると、ジャムもなくスムーズに装弾排莢が出来ました。
▲ MGC製20連マガジンを付けたMULE製トンプソンM1A1
マガジンは30連のものが標準装備。これはハドソン時代のものと同サイズで実銃マガジンよりも若干長いようです。MULE直販では、ハドソン版の20連マガジンの在庫分も少数販売されましたが、入手し損ないました。
フレームに装着するだけならMGCのものが使用できます。ルックス的にはこのほうがなじみ深いですね。
▲ 左:MULE(CAW)用30連マガジン、右:MGC用30連マガジン
20連、30連マガジン共にMGC用マガジンは、マガジンキャッチの穴の位置が上に付いているので、MULE(CAW)版、ハドソン版トンプソンに取り付けは可能。その逆はマガジンキャッチの穴にキャッチがかからないので不可となります。
ちなみにMULE(CAW)版、ハドソン版トンプソンにMGC用マガジンの取付は出来ても、マガジンが定位置よりも下側に付くので装弾自体はできません。
付属マガジンの刻印は「AUTO ORDNANCECORP.〜」で、MULE直販の特典で別売の予備マガジンの刻印は「U.S.-30 CARTRIDGE-CAL.45」でした。
▲ 上:MULE製30連マガジン、下:CMC製30連マガジン
CMC製トンプソンM1の30連マガジンと比べると、実物よりも長いと言われるMULE製マガジンは約2cm長さが長くなっています。恐らくCMC製は実物通りの長さを再現しているのでしょう。
CMC製マガジンはマガジンキャッチ用の穴の位置がMULE、ハドソン製と同じなので、MULE製M1A1の取り付ける事が可能です。
当然その逆も可能ですが、短いCMCマガジンを付けた方がバランス良く感じるのは気のせいですかね(画像ではほとんど分からなくても、実際に手にすると差が分かります)。
※2015,10,17にCMC製マガジンについての記述を追加しました
ハドソン時代とは異なりスリングは付属しないので、サードパーティ製のものを探すことになります。今回入手しやすいKM企画のものを選びましたが、金具もスリングの色目もオリジナル通りなので良い感じです。
最後に(サマリー)
久々の長ものモデルガンの新作でしたが、木製パーツの仕上げの良さと正確な刻印の再現で満足度の高い製品に仕上がっていると思います。
また、MULE(CAW)のリメイク作業以上に、ここまで内部メカをリアルに再現したハドソン製M1A1のポテンシャルの高さも評価するべきですね。
反面、上下フレームのガタ等30年以上前の金型を使ったリメイクモデルの限界も露呈しましたが、ハドソン版の最終価格よりも安価でリメイクしてくれたことを喜ぶべきでしょう。
発売前の動画ではブローバックの調子はかなり調子が良かったようですが、今回は発火はしていないのでブローバック性能については分かりません。今後発火したら情報を追加しますので、ご容赦下さい。
MULE(CAW)トンプソン M1A1 (カート5発付) 58,000円(税抜き)
トンプソン30連マガジン 5,000円(税抜き)
トンプソンカートリッジ(10発入) 3,500円(税抜き)
KM企画 トンプソン用 スリング 3,500円(税抜き)
参考資料
月刊GUN誌 1980年5月号
月刊GUN誌 2011年9月号
月刊GUN誌 2011年10月号
GUN Professionals 2012年11月号
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