MGC SIG M SP47/8 ABSモデル
Old Toy Gun Reports No,12
既に製造されていない懐かしのモデルガンを中心に取りあげる「Old Toy Gun Reports 」の12回目は、初のプラスチック製ブリーバックモデルガンとして登場した「MGC SIG M SP47/8」を最初期の紙火薬仕様モデルよ中期のキャップ火薬仕様のモデルを中心に紹介します。
実銃についての簡単な説明
SIG P210の開発は1930年代に始まっていて、当時軍用制式拳銃だったルガーM1900の後継モデルとしてフランス制式拳銃M1935Aの製造権を得る事からスタートしています。
口径をフランス独自の7.65mmMASから9mmパラベラム化するのに時間がかかり、プロトタイプが完成したのが1944年。第二次大戦の終結によって開発は足踏み状態になるものの、スイス陸軍によってトライアルが開始されます。
トライアルと前後して1947年にスウェーデンのスポーツ・シューティング協会からターゲットピストルの限定生産を打診されたのがSIG−PETTER 44/8で、このモデルにはデンマーク陸軍も興味を示しています(PETTERはM1935Aのデザイナー名 Charles Petterから)。
そこでスウェーデン・デンマーク向けに改良されたモデルがSIG−PETTER 47/8で、これをモデルガンとしてモデルアップしたものが「MGC SIG M SP47/8」です。
名称の「M」はModelの略、「SP」はSIG−PETTERの略。47/8は1947年開発の8連発と思われますが、正式な名称なのかは不明です。
MGC SIG M SP47/8について
46年規制(1971年)によって、金属製ハンドガンに銃口閉鎖と表面の金色化が義務づけされたことに対するMGCの回答が、プラスチック製モデルガンの開発でした。
そこで問題になるのが、プラスチック製モデルガンなら黒い地肌と開いた銃口が許される反面、プラスチック素材に対する反発と重量の軽さでした。
そこでマイナスイメージを払拭させるためのポイントが、手軽に(安価に)ブローバックを楽しめるモデルガンでした。
開発に当たっては、最初のプラスチック製モデルの製作ということで、ブローバック時に強度を保ちやすいスライドをフレームが包み込む形状のモデルが前提となりました。
その結果、当時マイナーな存在の「SIG M SP47/8」が選ばれたと言うことです。
また、破損を極力少なくするために、実銃とかけ離れたパーツ数の少ないMGCオリジナルメカと、フレームの肉厚を稼ぐために径の細い新カートリッジ仕様で設計されました。
結果として金属モデルガンの普及ブローバックモデル「ベレッタM1934」の7,000円よりも安価な4,900円という価格で1972年に発売されました。
当時はおもちゃ然とした外見と、独自メカや重量の軽さに批判もあったようですが、一方で好調なブローバック性能に助けられ79年にはキャップ火薬対応化、90年代にはCP化〜HW化されてMGC廃業まで生産が続けられました。
2016年には金型を取得したCAWによりHWモデルとして再生産された、息の長いモデルガンとなっています。
MGC SIG MSP47/8 ABS モデル(紙火薬仕様)
パッケージはスリーブパッケージと呼ばれる筒型のもの。上下発泡スチロール身の部分に被せられています。MMGC製品でもこのモデルにしか見られない独特のパッケージ形式です。
パッケージデザインは当時の宣材に使われた外国人モデルを表側に、裏面にSP47/8の透視図イラストを使ったメタリックカラーのものですが、これ以前にモノクロ仕様のSP47/8の写真を使ったパッケージもあるようです。
パッケージの身の部分は上下発泡スチロールのコンパクトサイズ。本体の他にカートリッジを収納するスペースが付けられていますが、上下とも同じ加工がなされているので厳密には上下の区別は無いようです。
本体はABS地そのままでヒケも多く、フレームのパーティングラインもそのままで価格相応にチープ感がありました。反面ABSの色にはこだわりがあって、単なるブラックでは無くブルーがかった色に調整されていたようです。
気になるウェイトは金属シャーシもウェイトも入っていないため、本体重量は約370g、カート8発込みで約425g。サイズ的には大型オートのボリュームなので、余計軽く感じます。
フレームの刻印は左側だけで、オリジナル刻印の「M.SP47/8 CAL,7.63 P 07238」と入れられています。彫りが細くて深いので、もしかすると後から機械彫りをしていたのかもしれません。
セフティはハンマーコッキング時にしかONにできないタイプで、クリックが無くても不用意に動きません。コストダウンのためか、セフティー部分のフレーム刻印は「S」と「F」は凸モールドになっています。
グリップ形状はくびれ部分が強調された好き際井の分かれるオリジナル形状。低年齢層を意識していたようで、その分握りやすくなっています。グリップは初期のものはマーブル柄でしたが、後にブラウン一色になりました。
ランヤードリングもABS製でフレームとの一体成形となっています。徹底したパーツ削減ですね。
グリップスクリューは、既製サイズを流用したのか、若干長めです。これは個体差では無く所持しているABSモデル全てが同じ傾向でした。
マガジン挿入口を見てみると、フレームの肉厚が充分以上に取られているのがよく分かります。この当時のMGCが使用しているABSは弾性が強いようなので、ひび割れとかの破損は少なかったようです。
発火方式はファイアリングピンタイプ。安全対策上センターは打たない設計になっていますけど、視覚的にもリアルです。
その後のモデルがセンターファイアを経てファイアリングプレート主体になっていくことを考えると、過度期的モデルだったんですね。
スライド前部のバレル上部は大きくえぐられています。実銃ではショートリコイルしたときのバレルの逃げなんでしょうけど、モデルガンでここまでの大きさが必要だったかは疑問です(CAWの再生産モデルでは修正されて埋められていることを考えれば、無くても大丈夫だったのかも)。
スライド上部にはフレームに準じた「P 07238」「SIGのロゴ」「M.SP47/8 CAL,7.63 」の刻印が入っています。スライドの金型が上下分割だったので、この位置にしか刻印が再現できなかったということらしいです。
スイス国章がある位置には王冠マークを模した懐かしの「MGC」ロゴが入っています。
次に簡単に分解して内部を見てみます
分解は最初にマガジンを抜いて、スライド先端をダストカバー先端とを合う位置まで下げてから、スライドストップを抜き出します。
次にリコイルSPガイドごとリコイルSPを縮めながら、バレルを抜き出します。通常はここまでの分解で充分です。
バレルはABS地のままですが、オプションとしてメッキバレルが発売されていました。後にメッキバレルが標準仕様となったようです。
デトネーターはバレルに打ち込み式で、実質的に交換は不可能。破損が少なかった「SP47/8」ですが、バレルの破損は良くあったようで、その場合はバレル+デトネーターの購入となっていました。
当時のデトネーター価格は破格の100円でしたから、消耗品として割り切ったものだったんでしょうね。
リコイルSPには巨大なゴム製バッファーが付いていますが、これもキャップ火薬仕様になってからは無くなっています。
フレーム内のパーツは、大まかにトリガーAssy、ハンマーAssy、セフティ&シアーAssyに分けられますそれぞれのAssyは、それぞれ1本のピン等でフレームに取り付けられているだけです。
その中でセフティ&シアーAssyは、セフティレバーの1本の軸にスライドストッパープレート、エジェクター、シアーSP、シアーの4パーツを同時に通して固定する構造なので、組立に面倒な手順と慣れが必要です。
またトリガーAssyは、テンションがかかったトリガーSPをトリガーピンだけで固定しているので、分解時にトリガーSPを飛ばす可能性があります。
フレームの各Assyを外すと、ほぼ完全分解です。パーツ数自体は少ないですが、先に述べたように分解・組立が面倒なので、普段はここまで分解する事はありません。
パーツ数を減らすことで、低コストと耐久性を高めることは出来たのかもしれませんが、分解しにくい構造はスチールパーツのメンテナンスが充分に出来ない問題を生み出しました。
カートリッジは新型で、後にルガーP08、コルト32オートなどにも使われました。後にインナーピースを別にした、5mmキャップ仕様に改良されています。
カートリッジBOXは12発入り。紙火薬仕様(画像上)とキャップ火薬仕様(画像下)の違いはありません(赤色の濃さが違いますが、これは印刷ロットの関係でしょう)。最初期は24発入りだったと言う記述も専門誌等にはあるので、どのようなパッケージだったか興味があります。。
マガジンはカートリッジサイズに合わせた薄型仕様で給・装弾はスムーズでした。発火に紙火薬を使うため、錆びやすいのが難点でした。
MGC SIG MSP47/8 ABS モデル(キャップ火薬仕様)
スリーブパッケージは「SP47/8」の写真を使ったものに変わっていますが、デザインテイストは同じメタリック調。表だけ製品名が「 M SP47/8」からMが抜けて「 SP47/8」に変わっています。
身の部分の発泡スチロールはウッズマンと同じデトネーターレンチのスペースやローダーのスペースが新たに付けられました。この改良で発泡スチロールの箱の身の上下の区別が付きました。
本体の外見上の違いはシルバーのバレルと、単色ブラウンのグリップだけです。これはキャップ火薬仕様になってからと言うわけでは無く、紙火薬モデルの末期からの仕様だと思われます。
最後に(サマリー)
紙火薬も無いので流石に発火はしませんでしたが、当時の記憶では火薬2〜3粒で快調に作動してました。バレル以外の破損は無かったですね。金属モデルのブローバックよりも簡単にブローバックで作動したイメージがあります。
キャップ火薬やCPカートを使った発火はしていませんが、シンプルな構造を考えるとどちらも問題は無かったと推測できます。
初期のプラスチックモデルガンの中でハイパトは発火音の迫力でしたが、SP47/8ブローバックの快調さというアクションの楽しさが印象に残っています。
ABSという素材の普及にとどまらず、ブローバックモデルの普及という形でモデルガンの裾野を広げた功績は大ですね。
今のトイガン(ハンドガン)の基礎を作ったマイルストーン的なモデルという事になるのでしょう。今日の目で見ると物足りない部分もありながら、シンプルでパーツ点数の少ない設計の良さが、50年あまりも生産が続いている理由なのでしょう。
宣材資料
▲B5サイズフライヤー(表裏)4/1C
▲モデルガン バイブルN,O11(表裏)A4サイズ1/1C
▲A4サイズフライヤー(キャップ火薬仕様 表)4/0C
1972年当時の販売価格
・SIG M SP47/8 紙火薬仕様(カート無し)・・・・・・・・・・・・4,900円
・SIG M SP47/8 紙火薬用カート(12発) ・・・・・・・・・・・・・500円
※直接資料等で確認できた価格です
参考資料
・月刊UN誌 2005年10月号
・月刊GUN Professionals 2012年12月号
・モデルガン クロニクル
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